“つかまえた!”  『抱きしめたくなる10のお題』
            〜年の差ルイヒル・別のお話篇
                *“
Miracle Smile ”の続きで、
                  またまたお兄さんたちが 高校生Ver.です、悪しからず


気がつけば、
街にはクリスマスのディスプレイがそこここで煌き、
遅かった紅葉を見たいのだか、
それともそれもクリスマスの演出なのか、
街路樹へのライトアップも検討されての。
人恋しい冷ややかな風もいとわないカップルが、
陽が暮れてからも闊歩している街中になりつつあって。

 「まあ、アドベントに入ったからな。」
 「あどべんと?」

それって何と?いう意味合いを持たせた抑揚へ、

 「キリスト教の暦じゃあな、
  クリスマスの4週前の日曜から
  あと何日って数え始めることになってるんだよ。
  その期間のことを“アドベント”っていうんだ。」

ふ〜んと感心し、潤みの強い大きな双眸を見張ったお友達、
それでかぁと何へか納得の様子を見せていて、

 「おばまさんは、なんか たいちょーが悪かったんだってね。」
 「何でいきなりアメリカの大統領の話になるかな。」

この、ふわんふわんな髪だけに留まらず、
ふかふかなほっぺも瑞々しい口許も、
幼い拙さみなぎる(?)小さなお手々も、
どこもかしこも綿飴で出来てるような印象のする、
いかにも幼いお友達の零した
…にしては随分とミスマッチな一言へ。
こちらもこちらで、
そんな彼とは到底同い年とは思えぬほど、
いかにも胡散臭そうと言いたげな、
いっぱしの大人のような怪訝そうなお顔をした子悪魔様。
顰めた眉と切れ長の金茶の双眸がまた、
本気で睨まれたなら何か祟られそうな気がするほど鋭くて。
この年齢でこんな威容を含んだ一丁前なお顔が出来るところが、
高校生のバリバリに恐持てな族の皆様をも黙らせ従わせていられる、
真価の伴われた恐ろしさでもあったりするのだが、
今はそれもさておいて。

 「あんね? 朝のにうすでね?
  ほあいとハウスのツリーを贈呈する もよーしをやってて、
  それへ、おばまさん、出て来てなかったの。」

別段、気が散っての言い回しの危なっかしさではないのだろう。
むしろそれを訊いた側であったはずの妖一坊やの方が、
ああほら力入れる手が逆だと、
言い回し以上に危なっかしい動きをする、
お友達の手元をハラハラと見遣っており。
結構な枚数を重ねた格好のホットケーキが
ずるりとすべっての雪崩を起こそうとしかかったの、
こちらさんは白身魚のフリッターを挟んだフィッシュバーガーに、
一応のカトラリーとしてついてきていた、
銀のフォークではっしと支えてやっている。

  ぎゃく?
  そう。ナイフにはそこまで力を入れんでいい。

ステーキ切ってるんじゃねぇんだからと、
使ってないままだった自分のナイフで
そのままさくりと手前を鋭角の扇形に切って見せ。
セナ坊の小さなお口へほれと差し出せば、
あっと言う間にそりゃあ嬉しそうな、
見ている者までが蕩ける笑顔になってしまい。
あ〜んと素直に食べさせてもらう愛らしさよ。
勿論のこと、もぐむぐと噛み締める間中も
それはそれは至福というお顔を続けていて、

 「シチローさんのケーキ、おいしーvv」
 「おや、お褒めのお言葉ありがとうございますvv」

ちょいと手が空いたのでと、店内のテーブルを回り、
お冷は足りてますかと気を利かせていた、
シンプルな型のエプロンがシックに似合う、
金髪の美人なお兄さんがニッコリと笑ってくれて。
そのすぐ後をちょこまかとついてきていた、
こっちのおちびさんたちよりももっと年下だろう、
やはり金髪の坊やが立ち止まると、
小さなお指をくわえて、
じ〜〜〜っとこちらを見上げてくるのがまた可愛い。

 「くうも食うか?」
 「そだよ、食べなよvv」

自宅のあるご町内からは微妙に遠出となる、
とある国道沿いの小さな茶房“もののふ”にて。
冬休みはまだちょこっと先ではあるが、
今日は日曜で、しかもしかも、
この後、王城ホワイトナイツの特別練習を見に行く彼らであり。
今は、その通り道となるこのお店にて、
お弁当にとサンドイッチのセットを作ってもらっている最中。
セナくんちのママも、妖一くんのお母さんも、
お弁当を作るのはそれはお上手なんだけど。
そういうのを飛び越えて、

 『何だなんだ、
  それだったら、俺が美味しいのを作ってやろう。』

合同練習のある王城大学へは通り道なんだし、
来る途中で“もののふ”へ寄って来な、
弁当ごとお前さんたちもグラウンドまで送ってってやるからと、
妖一くんのお父さんが、そんなお誘いを掛けてくださったので。
ここまではバスに乗ってやってきた二人の小学生さんたち。
もうちょっとで出来るからと、場繋ぎに出していただいたおやつが、
それぞれの両極端な好みの差を、
きちんと把握していたところがまたお見事で。
そして、きっと甘いものが好きなのだろうくうちゃんが、
ふにとお指を咥えてこちらを見上げてきたものだから。
もうすっかりと仲良しさんなセナお兄ちゃんも、
おいでおいでと手招きをする。

 「あ、ダメだよ、ヨウちゃんもセナくんも。」

そんなして甘やかしてたらキリがないでしょうが。
そっちこそ何言ってんのシチロー兄ちゃん、
美味しいものが飛び交う店だってのに、
くうってあんまりおねだりしないじゃん、と。
お身内二人の応酬の間にも、
天使のような甘い笑顔でおいでおいでする
セナお兄ちゃんの誘惑に負けたか。
寸の足りないあんよをパタパタッと弾ませて、
素直にそっちへと寄っていった小さな坊や。
セナくんのお隣り、レザーベンチ風のソファーによじ登ったところで、
待ち構えてたフォークの先っちょの、
三角に切り分けられてたホットケーキをどーぞと差し出され、
あむりとお裾分けをいただいてしまっており。

 「ありゃまあ。」
 「美味いか? くう。」
 「…vv」

小さな口許シロップでぬらして、
こっくりこと大満足でと頷くのがまた可愛いvv
愛らしい坊やらが3人も集合しているボックス席は、
まだ午前中で、しかも高校や大学はとうに休みになっていようことが、
モロに影響する沿線にあるお店の、
極端に少ないお客様たちの関心をぐぐんと惹きつけてやまないでおり。

 「うあ、あの子、くうちゃんにそっくりじゃない。」
 「というか、何年後かのくうちゃんって感じ?」
 「え〜? イメージは向かいの子の方が近くない?」

ちらちらと覗いては、
楽しそうに勝手な見解をご披露してくださるお姉様方にも、
3人とももう慣れたもの。
そんなことよりと、
妖一坊やが、おやつの傍らに広げていたのがアメフトの専門誌で、

 「ホワイトナイツは何か新兵器の予定とかはないのか?」
 「新ヘーき?」

外見は妖一くんに、だがだが素養はセナくんのほうに似た、
小さなくうちゃんのお世話を焼きつつ、
何の話?と小首を傾げる綿飴坊やへ、

 「だから。相手はあの帝黒だぞ?」

確か去年は…神奈川だっけか、
まだ一年だったとはいえ、もうレギュラーだった進もいた王城を負かした、
やっぱりとんでもなく強かったとこを、あっさりねじ伏せた強豪なんだぞ?

 「関東大会でも微妙に苦戦が続いたんだ。
  何か隠し玉とかねぇのか?
  でないと、きついんじゃないのか?」

 「う〜んと、セナは知らないよ?」

大きなお目目をくるくると瞬かせ、うふふと笑ってから、

 「知ってても教えないも〜んvv」
 「あ、こら。もう試合は終わっとろうが。」

敵だから言わないというつもりらしいセナくんへ、
おいおいと眉を顰めたものの、

 “まあ、そういうのがあっても、
  こいつにまでは聞かされてはないだろうよな。”

あの寡黙なお不動様が、しかもこんな幼子へ
アメフト関係の、しかも試合に関することを語るとは思えない。
関係がないとか、難しいだろうからというんじゃなくて、
自分と葉柱のような、
そういうことを共有する間柄とか対象とかではないからだ。
昨年の今頃の、アメフトなんて何人でやるのかさえ知らなかった頃よりは、
多少はルールも覚えたセナではあろうけれど。
どんなプレイをすれば自殺点になるのかとか、
少しでも深い展開になったら、
相変わらずワケが判らなくなっているようだし。
はたまた、進の側でも、
あの融通の利かない奴には珍しくも、それでいいと思っている節が強い。
屈託なく笑っている姿こそ、この子の最も素晴らしい美点だと、
そうと感じていての、
むしろそのままでいておくれという彼なりの我儘で、
いちいち教え込んだりしないで、そのままにしているのやもしれず。

 “凄げぇな。逆をはった 光源氏計画かよ。”

好みに合わせて教育するんじゃなく、
無垢のままでいてと守る自然培養かァと。
(おいおい)
およそ子供とは思えぬ感慨に、
内心でしみじみと唸っていた子悪魔様だったが、
そんな彼だとも気がつかぬままのこちらさま、
2口目を頬張らせたそのついで、
小さな弟分の口許を結構手際よくも拭ってやりつつ、

 「今年の“ひみつへーき”はセナも知らないけど、
  ずっと先ではセナがひみつへーきになるからいいの。」

 「あ?」

  だからね?
  今は全然、一緒のチームとかに入るの無理だけど、
  大人になったらば、
  セナと進さんと同じ大人のチームに入れるかもしれないでしょう?

 「そん時にネ、セナが進さんのひみつへーきになんのvv」

目許をたわめ、そりゃあ嬉しそう、いやさ、誇らしげに言う。
おいおいと呆れかかった妖一くんだったものの、

 “いや、待てよ。”

この小さなセナくん、か弱そうに見えつつも、実は結構な俊足で。
誰にでも何かしら得意はあるもんだななんて、
日頃はからかいの種にしかしちゃあいなかったが、
内心では大したもんだと
この子悪魔様でさえ認めているレベルの頼もしい速さ。
このまま順調に伸びてけば、秘密兵器に十分なり得るそれだと気づいて。

 「おい、セナ。」
 「なァに?」
 「進の秘密兵器なんざ勿体ねぇぞ、俺とタッグ組まねぇか?」
 「え〜〜〜?」

やだよぉ、進さんとがいい。
だって、進さんてランニングバックの人お捕まえる役だもん。

 「ランニングバッカーって、
  足が早い子が受け持つ役でしょお?/////////」

ボール持って走ってくの、
がばあって捕まえるのが凄いカッコいいんだもの。
だから、セナは進さんのチームのランニングバッカーになって
そいでね、あのね、捕まえてもらうの。
そりゃあそりゃあ幸せそうなセナくんなのへ、

 「……セナちび、残念なお知らせがあんだがな。」
 「なぁに?」

チョイと言いづらいんだがと
困ったように眉を寄せた妖一くんが告げたのが、

 「同じチーム同士で
  ラインバックがランニングバッカーを捕まえるってことは
  滅多にねぇぞ?」

 「ほえ?」

のんびり屋さんなセナくんへは、
なかなか真意が伝わらなかったほどに。
これでも随分と言葉を選んだ彼だったのは、
言うまでもなかったのでありました。



 「………ええええっ!
  てきどーしじゃないと捕まえてくんないのぉ?」

 「どんだけ蛍光灯なんだ、お前は。」




  〜どさくさ・どっとはらい〜 10.11.28.


  *打倒、帝黒! 進さん、ばんばれ!

   じゃあなくって
(苦笑)

   お題とは微妙に関係ない描写ばっかですいません。
   テレビで大学アメフトの関西関東の決勝をやってたのを見たもんだから
   …と書き始めたはずなのに、
   背景に使った素材のホットケーキに
   思いのほか影響を受けたようでして。
(苦笑)
   直接捕まえてはくれないかもだけど、
   セナくんへ掴みかかる敵ラインを薙ぎ倒す役は喜んでやるかもだぞ?
   リードブロッカーへ転進か?ですねvv
(どっちにしたって…)

   追記 妖一くんのお父さんが戻ってきたのは、
      葉柱さんたちが大学生になってからでは?
      というツッコミはなしの方向で。
(苦笑)


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